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「”2つの顔を持つチーム”でなければ勝てない」――。そう語られるほど、世界中のチームが、メタの嵐に揉まれ、しのぎを削り、適応を繰り返した激動のVALORANT Champions Tour 2025は、NRGの勝利で華々しく幕を閉じました。
激動のシーズンを、最前線で見守り続けたキャスター・岸大河さんとyukishiroさんはどう見たのか。 「歴史を動かした」と評される意外なMVPから、ZETA DIVISION・DetonatioN FocusMeら日本勢への率直な評価まで、2025年を総括するロングインタビューをお届けします。
――今年のVCTはどんな1年だったか、全体の印象はどうですか。
岸大河:今年はPacificが国際大会を含め、地域全体のレベルを上げた年だったと思います。加えて、Pacificのメタや戦い方を各地域が参考にしつつ、Championsに向けて仕上げてきた1年でもありました。
戦術面では、テホの採用や、ヨルを基軸にネオンやウェイレイを組み合わせたダブルデュエリスト構成など、メタの輪郭がくっきりと現れていました。それだけに、特徴的なエージェントが数多く活躍した年だったという印象ですね。
また、若手選手がTier 1シーンに挑戦し、世界から大きく注目されるようになった点も重要です。PRX(Paper Rex)のPatMen選手をはじめ、T1やTalonなどからもアカデミー出身の選手が登場し、面白い才能が次々と出てきたなと感じています。
yukishiro:Pacificに焦点を当てると、難しい一年だったと思います。メタがガラッと変化したことで、いわば「2つの顔を持つチーム」でなければ勝てないのではないか……そう感じるほど難易度が高かったですね。
ただ、だからこそ生まれたストーリーもありました。プレイする側は本当に苦しかったと思いますが、観る側としては非常に面白い年だったと感じています。
――今年はPRXが復調してMasters Torontoを優勝するなど、メタごとに強いチームが分かれた印象です。今年のテホを中心としたメタからダブルデュエリスト中心のメタへのシフトのカギはなんだと思いますか。
岸大河:まず、「テホ」が中心だった時期は、とにかく足止め系のアビリティが多かったのが特徴です。まとまって動こうとしても、テホの「誘導サルヴォ」や「スペシャルデリバリー」で止められてしまう。そのため、PRXのようなチームにとっては、かなり苦しめられた期間だったのではないでしょうか。
テホが弱体化を受けてからは、スピード感やアドリブを重視するスタイルが世界中で見られるようになりました。これにはMasters TorontoでのPRX優勝の影響もあると思いますが、セオリー通りに戦うだけでは勝てない時代が来て、型にはまるのではなく「型を破る」ようなチームが増えてきた印象です。
ZETAもTenTen選手が加入してから良い一面が見られましたが、そうした「自由度」を戦術にうまく織り込むチームが増えた一年だったと感じました。

――昨年は「Gen.Gが世界全体のレベルを引き上げてくれた」とお話がありましたが、今年パシフィックを引っ張っていったチームはどこだと考えますか。
岸大河:やはり一番は、PRXではないでしょうか。Kickoffやレギュラーシーズンの序盤は結果が振るいませんでしたが、そこからの復調は見事でした。
個人的にはsomething選手がMVPだと思っています。エージェントが変わり、IGLも担い、その上でチーム特有のスピード感にもついていかなければならない。相当な葛藤や思考があったはずです。PRXの強みである「自由度」と、チームとしての「統率」を両立させつつ、リアルタイムなアイデアベースで行動を決定していく。その難易度の高い戦い方を遂行した点は、もっと評価されるべきだと思います。他チームには真似できないスタイルかもしれませんが、それでも全チームが意識しなければならない、そんな存在でしたね。
あと、Stage 1だけでいうと、BOOM(BOOM Esports)もかなり面白いチームだったなという風に思いました。Stage 1の徹底したダブルピークであったり2段であったりっていうのは、運や流れとかで連勝しただけではなくて、BOOMの強みをより発揮させたものだったと思うので、Pacificのレベルを上げた「いや、こいつら結構やるな」っていう印象をつけたと思います。
yukishiro:個人的に、今年はDRXに期待していました。かなり若手を中心とした編成に切り替える中で、Kickoffではダブルデュエリストを試すなど、メタの先取りを意識していたように感じましたね。
以前のDRX、さらに言えばVision Strikers(DRXの前身)時代からの「セットプレイの鬼」というイメージや、相手を完封する高い対策力は、今のチームにも健在です。ただ、それほど強固なDRXでさえ苦戦を強いられるのが、現在のPacificというリーグなんですよね。それだけ全体のレベルアップが著しかった証拠ですよ。
そのほか、BOOMやNS(Nongshim RedForce)といったAscension上がりのチームが、かなりの好成績を残しました。G2という例外を除けば、他地域では昇格組が苦戦する傾向にある中で、勝ち続けるのが本当に難しい年でしたが、上位を争うチームの存在が、周りのレベルをどんどん引き上げていったのだと思います。
――今シーズンはマップローテーションやマップ変更も多くありましたね。
岸大河:当初はマッププールが変わるタイミングで、チームごとの得意不得意がはっきり出るのではないかと予想していました。VCT Pacific公式のコーチ座談会でも、「アイスボックスがなくなるから、このチームには追い風だよね」といった会話がありましたよね。
岸大河:でも実際に試合が始まってみると、苦手とされていたマップでも勝てたり、逆に得意なはずなのに勝ちきれなかったりと、事前の予想はあまり関係なかったように思います。メンバーチェンジやメタの移り変わりの中で、「意外とやってみたら勝てる」というケースが結構ありましたね。
地域ごとの特色で言えば、CNのEDG(EDward Gaming)が地域で流行っているマップを固定BANする面白い動きもありましたが、Pacificではやはりヘイヴンの採用率が高く、人気がありました。
特にPRXはずっとヘイヴンをBANしていましたが、いざ戦ってみると「全然強いじゃん」という結果になった。”得意マップ””苦手マップ”って意外と流れとか、新たなエージェントの構成を発見すれば、意外とできちゃったりするのかな、という風にも思いましたね。その点を考えれば、いまのヘイヴンのダブルコントローラー構成の形を基礎から作っていったGen.Gも世界のメタを牽引したチームの一つだったかもしれないですね。

――今年は新たにカロードが登場しました。今シーズンのVCTにとってカロードはどういう存在になったでしょうか。
岸大河:キャスター視点では、見ていて面白いマップでした。エリアがくっきりと分かれており、スモークを使ったエリアコントロールや、「どこで当たり、どのエリアを確保すべきか」が明確です。特にディフェンダー側はサイト間の寄りが遅くなる構造なので、「早めにプッシュして情報を取るか、早めに引いて寄るか」という決断を迫られます。そうした判断の仕方に、各チームの特色が出しやすいマップでした。
また、勢いでラウンドをもぎ取ったり、得意なスタイルを押し付けたりできるため、そこまで優先的にBANしなくても戦えるマップだったのかもしれません。 構成面でも、ウェイレイやネオンといったエージェントが多く起用されていました。チームにとっては比較的戦いやすいマップだったのかもしれません。
yukishiro:個人的に「カロード」は、プロの間でも評価が分かれるマップだと思っています。ただ、観る側としては、かなり上位に入るくらい「見やすい」マップなんですよね。 サイト内での激しい交戦や、エリアコントロール、セットプレイが見どころになる一方で、ミッドやリンクでは局所的な撃ち合いやドライでの勝負も発生します。この構図がはっきりしているため、視聴体験として非常に分かりやすいかなと思います。
また、センチネルの影響力が強く、ヴァイスやヴァイパーといった防衛寄りのエージェントが輝きやすい点も、良いですね。Pacificでは、DRXが「難攻不落のAメイン」を作り上げ、「この理想的な守りをどう攻略すればいいんだ?」と思わせる場面がありました。しかし、そこへ「ミッドでのオーディン運用」といった全く別の回答が登場したりもして。出たばかりでありながら、「あ、これ結構奥が深いな」と感じさせてくれるマップでした。

――個人的に選ぶ、2025年の最優秀選手は誰でしょうか。
岸大河:世界全体で選ぶなら、今年のChampions MVPであるbrawk選手を挙げます。少し失礼な言い方になってしまいますが、彼は「今後の歴史で最も印象に残らないMVP」でありながら、同時に「歴史を動かした選手」だと思っています。
VALORANTのMVPといえば、これまではaspas、something、leaf、Alfajerといったエイムに特化した選手や、nAtsのようなIGLもこなす天才が選ばれる傾向にありました。brawk選手のように、地道な研究を積み重ねるタイプの選手が世界に名を轟かせることは、これまであまりなかったんです。
brawk選手の真骨頂は、相手のポジションを予測し、壁抜きでスキルの定点をつぶすといった緻密な研究量にあります。インタビューでも語られていましたが、そうした準備がチームを有利に導きました。 オーディン流行のきっかけであり、「今後、オーディン使いがいなければ勝てないのではないか」と思わせるほどのインパクトを残した、歴史をかえた選手だと思います。
yukishiro:選ぶのは難しいですが、パッと頭に浮かんだのはFNATICのcrashies選手ですね。FNATICに加入してからのパフォーマンスの伸びが著しいんですよ。 元々トップクラスの実力者ではありましたが、あれほど即座にチームに馴染むとは驚きでした。以前からの強さに加え、組織への適応力の高さを見せつけられた気がします。
岸大河:crashies選手については、AmericasからEMEAへの移籍という大きな環境変化があったにも関わらず、即座に適応してみせました。多くの選手が地域移行に苦しむ中、フィットするようにスッと入れた。
NRG時代から培った経験もあると思いますが、「相手の心理を読み、盤面を動かし、的確にアビリティーを運用する」という徹底したプレイスタイルが、逆にどのような環境にも馴染む「柔軟性」を生み出されたと思います。感動しました。

――Pacific AwardではHYUNMIN選手が選ばれましたが、岸さんとyukishiroさんが選ぶ“最も成長した選手”は誰ですか。
岸大河:僕もやっぱり、DRXのHYUNMIN選手かな。もしくはPatMen選手(PRX)でしょうか。
HYUNMIN選手は、キックオフ前のオフシーズンこそ強さを見せていましたが、シーズン序盤は少し波がありました。しかし、途中からは「もう彼がいないとDRXは成り立たない」と思わせるほどに成長しましたね。エントリーとしての安心感もあり、圧倒的なエイム力で「HYUNMINなら勝ってくれる」という信頼感もある。本当に一年目とは思えない選手になりました。
「1年目」という括りで言えば、dos9、gyen、thyyの3名の成長も凄まじかったと思います。 gyen選手はアカデミーなどの経験がない中での挑戦でしたから、その成長には驚かされました。 thyy選手に関しては、途中から「なんだこの選手は」と思うほど化けましたね。エイムと安定感を兼ね備えた、恐ろしい選手へと進化しました。最初はTalonといえばPrimmie選手ばかりが注目されていましたが、次第に「thyyがヤバいぞ」という空気が生まれ、毎回期待せずにはいられない選手になりましたね。
dos9選手はKarmine Corpへ移籍してしまいましたが、彼もまた成長が著しかった一人です。「1年目」と呼ぶべきかは議論の余地がありますが、素晴らしい活躍だったと思います。

yukishiro:僕はkaajakですかね。
岸大河:kaajak選手も、最初は不安定な部分が多く見られました。それでも国際大会で経験を積む中で自信をつけ、成長していった。今後もさらなるパフォーマンスを出してくれるとは思いますね。
yukishiro:今でも覚えてる、「アビスのミッドで、kaajakをまるでボロ雑巾のように使っている」って(笑)でも、ああいう泥臭い役割をこなせるようになったことこそが、今年のkaajak選手の成長の証なのかなと感じますね。
――yukishiroさんはPacificで最も成長した選手なら誰を選びますか。
yukishiro:HYUNMIN、PatMen、gyen、thyy、そのあたりの選手ですかね。うーん。でも、その中でMeiyを入れないのもあれですけど、Meiyは去年の段階で既に輝いていたと言えるので。
岸大河:わかる。難しいんだよね。Meiyは直近本当に強くて、日本で圧倒的に強いと思う。今年で自信という強みが本当に出たと思うんで、実力はもちろん、そこに自信がついた一年だと思うので、本当に化物級に強いと思いますよ。
yukishiro:ただメタもあってステージ1が、強かったのに振るわんかったんだよな。
去年のZETAとの試合で活躍してからずっと強かった。そのあたりから急成長というか自信がついてきた。でも、メタが原因ではあるけどステージ1でパフォーマンスを維持できなかった。ってというところで難しいところですよね。

――では、Meiy選手つながりで、今年の最初、ZETA DIVISIONとDetonatioN FocusMeにどんな印象を抱きましたか?
岸大河:僕はZETA DIVISIONはシーズン中に頭打ちを食らうくらいのメンバーかなという印象でした。個人個人の成長度も緩やかになってきてベテランに入りはじめたくらいの年齢の選手が多かったので、個人の成長というよりは……。
前編では、Pacificの飛躍、テホメタからの大変革とPRXの復活、若き才能の台頭を振り返りました。後編では、ZETA DIVISIONとDFM(DetonatioN FocusMe)が世界の壁に挑んだ軌跡を徹底分析。安定感と爆発力、その先に何が足りなかったのか?
岸大河が語る新生ZETA DIVISIONへの不安と期待、二人が「SyouTa」をカギに選んだわけとは。そしてDFMには何が必要なのか。2026年のVCT予想から話題を呼んだキャスター勝敗予想の裏側まで、キャスターの鋭い視点で切り込む! 日本チームの未来はどこへ向かうのか、後編へ続きます!
後編は明日12月31日に公開予定です。
<取材・執筆:えとのす棘/編集・校正:岡野 朔太郎>