Riot Games Japanは2025年1月14日、大会運営パートナーが日本テレビ放送網と博報堂DYメディアパートナーズとなり、 VALORANT Challengers Japan 2025 実行委員会を組織したことを発表しました。国内リーグ「VALORANT Challengers Japan」の運営およびVCT Pacificの配信などを新たな体制で手掛けています。
これまで、配信からオフラインイベントまで数多くの実績を残してきた中で、新たなパートナーはこれをどのように引き継ぎ、さらなる高みを目指すのでしょうか。
今回、日本テレビでeスポーツ事業を手掛けてきた小林大祐氏、メディアビジネスを中心にスポーツビジネスにも関わってきた博報堂DYメディアパートナーズの笠置淳行氏、そしてRiot Games Japan VALORANT Esportsプロデューサーの泉航平氏に、キャスターのOooDaさんが聞き手となって座談会を実施。
「変わること」「変わらないこと」、そしてeスポーツの未来に向けた展望まで、率直な想いを語っていただきました。
※本座談会は、2025年1月下旬に実施したものです。
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◆『VALORANT』ファンの笠置氏が感じるリアルスポーツとeスポーツの違い
OooDa:まずはみなさんの自己紹介をお願いします。
泉:Riot Games Japan VALORANT Esportsプロデューサーの泉航平です。よろしくお願いします。
小林:日本テレビの小林大祐と申します。2018年に日本テレビでeスポーツチーム「AXIZ」とeスポーツ番組「eGG(エッグ)」の起ち上げから、一貫してeスポーツ事業の統括をしています。
笠置:博報堂DYメディアパートナーズの笠置淳行と申します。今回の取り組みをきっかけにeスポーツに携わっていけることを楽しみにしています。いち『VALORANT』プレイヤーでもありますので。
OooDa:泉さん、今回はどういった経緯でこの座談会に至ったんですか?
泉:1月14日に発表させていただいた通り、今年から新しいパートナーとして皆さんと共に運営していくことになりました。体制が変わることで、ファンの皆さんには「新しいパートナーに変わって何が変わるんだろう?どうなってしまうの?」と不安な方もいらっしゃると思います。そこで今回、変わること、変わらないこと、どんな人たちがどんな想いでやっているのか、しっかり説明できる機会を設けることで、皆さんに安心して欲しいと考えています。
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OooDa:僕もいちファンで、キャスターでもありますけど、我々ファンにとっても、こういった機会があると安心すると言いますか、嬉しい気持ちではあります。
ではさっそく、日本テレビ放送網と博報堂DYメディアパートナーズが一緒に「VALORANT Esports」をやろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
小林:きっかけは偶然といいますか……。僕がパートナーのご相談を受け始めたタイミングで笠置さんと知り合えたことがきっかけでしたね。
笠置:共通の知人の紹介でしたね。
OooDa:笠置さんは元々eスポーツがお好きで?
笠置:eスポーツ自体は観戦したことがありましたが、『VALORANT』の試合を観戦したのは、一昨年のRiot Games ONEが初めてだったんです。
きっかけは、弊社内のたまたま近くの部署に熱心な『VALORANT』ファンの女性がいて、当時「eスポーツです!毎日見てます、やってます!VALORANTっていうタイトルなんですよ」とすごく楽しそうに教えてくれて、これはなんか面白そうだぞと思い、Riot Games ONEを観に行きました。
そこで若い人たちが夢中になっているのを見て、社内でeスポーツに関われないかなと思っていたところで、このような機会に恵まれました。当時はChallengersに関われるなんてこれっぽっちも思っていなかったですよ(笑)
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OooDa:日本テレビは昔からeスポーツチームの運営やeスポーツ番組の放送など、eスポーツのイメージがありましたが、博報堂DYメディアパートナーズはこれまでeスポーツにどのように関わってきたのでしょうか?
笠置:協賛セールスなどの形で、著名な大会のお手伝いをさせていただいたことはありましたが、直接関わる機会はそれほど多くはなかったですね。
OooDa:そこから社内で話を通していくのって、めちゃくちゃ大変だったんじゃないですか?
笠置:私自身、『VALORANT』にとても愛着がわいたんです。Riot Games ONEをきっかけに、ChallengersからVCT Pacific、Mastersの試合を見て、昨年は韓国のChampionsまで行き、この一年かなり追ってきました。
OooDa:笠置さんと雑談していても『VALORANT』の話しか出てこないんですよね。
泉:僕が最初にお会いしたときも、Paper RexのJinggg選手の話が止まらなくて。博報堂DYメディアパートナーズさんの中で、『VALORANT』をここまで知ってくれて、愛してくれている方がいらっしゃるんだと思って、驚きました。
笠置:プレイはなかなかうまくいかないですけどね。
OooDa:それでもランクはシルバーだと聞きました。
笠置:今シーズンはブロンズからやり直しです(笑)
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OooDa:しっかり『VALORANT』プレイヤーですね。泉さんからみても安心できますか?
泉:そうですね。Riot Gamesが最も大切にしているのは「プレイヤーファースト」です。まず自分自身がプレイヤーじゃないと、プレイヤーが求めているものが分かりません。そういう意味で、これだけゲームを愛し、Riot Gamesの理念、信念が共鳴している人たちが携わってくれている安心感があります。
OooDa:笠置さんはこれまでスポーツビジネスにも関わられてきたと思うのですが、eスポーツという世界をどう感じられたんですか?
笠置:日本テレビさんも同じだと思いますが、弊社ではさまざまなビジネスを通じて、野球、サッカー、バスケットボールなどのリアルスポーツに携わり、リアルイベントを含めて魅力をどう伝えていくのか、どう運営したらファンに喜ばれるのかを考えてきました。
ただ、eスポーツはちょっと違うな、と感じています。eスポーツは、Z世代を中心に若い層が多くを占めていて、SNSでの流行など、ストリーマーやVTuberの皆さんが盛り上げる世界観があります。なので、我々としてはこれまでと違う考え方で入っていかないと、ファンの皆さんを夢中にするような魅力を発信できないと考えています。
◆日本テレビが過去に主催した大会の第一試合はCR vs Absolute
OooDa:日本テレビはeスポーツに参入して久しいですが、小林さん自身はどのように『VALORANT』と出会ったのでしょうか?
小林:『VALORANT』は2020年6月のリリース時からプレイしていました。元々、日本テレビは『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』のプロチーム「AXIZ」を運営していたので、当然Riot Gamesのタイトルには注目していて、リリース当時はRiot GamesがFPSをリリースすると話題になっていたのを覚えています。
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OooDa:ざわついていた時期ですね。出すらしいぞと。
小林:Riot GamesがFPS作って、果たして面白くなるのか?と当時ざわついていましたよね。僕自身『LoL』もやっていたし、とりあえずやってみようとプレイしたらめちゃくちゃ面白くて、どっぷりハマってしまったんです。
eスポーツの文脈では、「Absolute(現在のZETA DIVISION)」が別のゲームで日本1位になりアジア1位になり、努力を重ねていました。そこから『VALORANT』へ転向し、破竹の勢いをみせましたよね。業界内では「Absolute」の努力は知られていましたが、それが『VALORANT』の人気と共に広がっていき、駆け上がっていったのはめちゃくちゃアツかったです。そんななか、日本テレビとしてもリリースの時から『VALORANT』でなにかしたいと思っていたんです。
OooDa:リリース当初からやりたい気持ちがあったんですね。
小林:そうなんですよ。実際に2020年12月には、日本テレビ主催で「eGG esports challenge G-Tune VALORANT INVITATIONAL」という大会を開いたんですよ。ちなみに最初の試合の組み合わせはCrazy Raccoon vs Absolute Jupiterだったんですよ。
OooDa:その組み合わせは日本で伝統的なものになっていきましたね。
小林:このように『VALORANT』に注目していましたが、VCT設立時からRAGEさんが配信などを手掛けていて、どんどん人気になっていくところをみて、「こういうことがやりたかったんだよな」と感じていました。なので、このお話が来たこと自体がある意味信じられず、こんなことがあるんだと。
そんなタイミングで、博報堂DYメディアパートナーズの『VALORANT』大好きおじさんの笠置さんに偶然出会って、意気投合して、今に至ります(笑)
◆枝をかき分け登ってきた日本のVALORANT Esportsは今、“展望台”にいる
OooDa:新体制となった2025年で、既にシーズンも始まっていますが、どのような運営になっていくのでしょうか?
泉:まず今回の新体制に移行するうえで、現状のVALORANT Esportsを山登りに例えると、いま到達しているのは、一つの展望台みたいなところです。これまでは、森の中の木を切りながら、とりあえずがむしゃらに山を登ってきました。そして振り返れば、ファン、選手、チーム、スポンサーなど多くのステークホルダーの支えがありました。
おかげさまで、年2回のぺースで大規模なオフライン大会が満員御礼で実施できるなど、大きなことが実現できるほどには、結果を残してきたと思います。
けれども、サッカーや野球のような日本のリアルスポーツの頂点を見ると全然違った景色があります。
いまやりたいことは、その頂上へ登っていくために、改めて装備を見直し、今まで登ってきた道のりが正しかったのか、もっと効率化できるところがあるんじゃないかという時期だと思います。さらに上を目指すための装備を整えていく段階なんです。
具体的には、運営に対する労働環境や、大会運営やチーム側の経済状況など、さまざまなところでまだ足元がゆるいところがあります。日本テレビさんのeスポーツ番組「eGG」などマスに対してeスポーツを届ける取り組みや、元オーナー側の目線で運営をされてきた小林さんの知見、笠置さんのスポーツビジネスの仕組みに関する知見など、さまざまな要素をeスポーツに取り入れ、頂上に向かうための新たな原動力をつくっていきます。
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OooDa:たしかにマスに届いてこそ一流の文化になっていくと思います。日本テレビとして小林さんはどう思われますか?
小林:今年は、日本テレビで手掛けてきたeスポーツの集大成になるような年にしたいと思っています。
eスポーツ専門番組「eGG」の放送、プロチーム「AXIZ」の運営を続けてきましたし、2023年9月からはeスポーツ大会の制作運営会社「JCG」にもM&Aでグループに入っていただきました。僕らが手掛けてきたeスポーツのノウハウを、今日本で最も注目されているVALORANT Challengers Japanに全て注ぎ込み、結実させたいという強い想いがあります。
OooDa:強い想いが聞けて、いちファンとしても嬉しいですね。
小林:無論そのうえで、日本テレビに期待されている地上波の力や、大会そのものを魅力的にみせる仕掛けなど、日本テレビならではのノウハウをもって取り組んでいきたいと思います。
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◆プロスポーツ化に欠かせない「チームの安定」
OooDa:先ほど泉さんから「チームの経済状況」という話もありましたが、リアルスポーツのビジネスに造詣が深い笠置さんとして、今のeスポーツチームはなにが重要だと考えていますか?
笠置:『VALORANT』はゲームとしても、競技としても面白いと感じますし、これまで取り組んできたことにもリスペクトしています。ただ、チームの方とお話しすると、やはりチーム運営はまだまだ大変という声も聞こえてきます。
OooDa:ちょっと生々しい話ですね。
笠置:どうやってチームが安定して運営をできるようになるかが、プロスポーツ化という本当の意味でとても大事だと思っていて、そのお手伝いをしっかりやっていきます。
小林さんは集大成ですが、僕らは良い意味でも悪い意味でも新人のチャレンジャーだと思っているんです。不安にさせる部分もあるかもしれませんが、これまでにない発想でチームを応援したいと思えるようにしていきます。
まずはちゃんと引き継いだ、今までのものは大事にしていきつつ、そこにどんどんチャレンジをしていって、より良いものにしていきたいですね。大会の構造の進化をはじめ、スポンサーの皆さまがeスポーツを応援したくなるスポンサードの仕組みや、ファンの方がもっと応援したい気持ちを発散させる場所づくりなど、さまざまなことにトライしていきます。
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◆まずは体制が変わっても「変わらないこと」
泉:VCT Pacificはご覧いただいているとおり、すでに安定した運営がしっかり出来ていると思います。
というのも、Riot Gamesは世界中で、世界各地の知識、技術のもとで大会運営を実現している中で、どの地域の配信であっても同じ視聴体験が得られるような大会運営のテンプレート化のようなものが進んでいます。
実際にVCT Pacificの配信を見ていただいていても、大きく昨年と変わったところは見られなかったと思います。それらと同じようにベースの部分はRiot Gamesが守りつつ、両社の持つ強みの部分がアドオンとして活きる形で体制を整えていきます。
OooDa:新体制となったVCT Pacificの初回では「大コケすることは出来ない!」というプレッシャーもあったと思いますが、日本テレビやJCGとしてどのように取り組んでいたのでしょうか?
小林:JCGは大会、しかも単発ものではなくてシリーズで開催されるようなものを多く手掛けてきて、そのためにデザインされたスタジオも保有しているんですよ。
最初にこのご相談がきたときには、JCGが培ってきた、シリーズもののプロ大会のスタジオ設備やJCGが持つオブザーバー専門のチームなど、まさに真価を発揮する「一番向いているものが来た!」と思いました。緊張感をもってしっかりと人員体制を整えて運営しているので、外部ツール関連のテックトラブルはありますがそのようなトラブルへの対応を含めてスタジオ運営としては今のところ順調に開始できまして、ホッとしているところです。
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OooDa:既に配信が始まっていますが、大きく変わらずに見られるイメージがあるので、いいスタートを切ったなという印象があります。
泉:まずは変わらないことが僕らが目指すべき姿ですね。ただ、eスポーツは試合の内容をはじめ、全てが生物(なまもの)です。そのときのさまざまな環境に対して、いかに瞬時に適応していくかが一番大事なので、チームやファンの皆さんの反応をみながら、求められている新しい要素にどのように応えていけるのか、エンターテインメント性と即時の対応力がこれからの課題になると思っています。
◆「Advance Stage、配信しないのか」問題
OooDa:配信の流れで個人的に聞きたいことがあって、Challengers JapanのAdvance Stageでは、気になる対戦カードや配信で見られないチームが試合をしていたりと、多くの反響があったと思います。次回、配信に期待していいとかありますか?
笠置:「試合が見たい」気持ちに応えることが求められていると感じているので、上手く話し合いながらチャレンジしていきたいですね。
OooDa:大会の配信がありすぎても「見なくていい」気持ちに繋がったりすることもあるでしょうし、難しいラインですよね。
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泉:Advance Stageは試合数も多く、大会の視聴経験として完璧なものをお届けできないのであれば、意味がありません。これまでと変わらず、しっかりとクオリティの高いものを提供する上では、まずは大会の経験を一つずつ作っていく必要があるため、今回はMain Stageから配信することにしました。
小林:つまるところどこから配信するかが難しいんですよね。
OooDa:Advance Stageは並行して試合が行われるので「さあ始まったよ!」とは言いにくいんですね。
泉:大前提として、みんな全試合を配信したいんです。
小林:やりたいですね。
記者:この文脈で余談として伺いたいのですが、VALORANT EsportsグローバルヘッドのLeo Faria氏は、Challengersのことを“育成の場である”と話しています。これに対して泉氏はどのように考えているのでしょうか?
泉:難しい質問ですね。Leoの話すChallengersの位置づけは、グローバルにおけるChallengers Leagueの話をしています。そのなかでも日本は、選手層の厚さ、視聴者数の規模、オフライン大会の規模もとても大きなリーグとして成長をみせていて、育成の場であるという次元をある意味で超えている側面もあります。日本のプロ野球のように、Challengers Japanだけでエンターテインメントとして昇華できるような規模なんです。
笠置:4つのリーグに並ぶ「VCT Japan」ができるくらいの環境があるのは日本しかないかもしれません。そのためにはファンもプレイヤーも安定させないといけないので、その先のゴールとして夢を見ましょう。
OooDa:ここが1つの世界大会になるということですね。
笠置:まずは、Challengers Japanにエコシステムができることが大事ですね。MLBとは別に日本プロ野球は盛り上がっているし、サッカーやバスケも盛り上がっているので、そのためにはどうしたら良いのかをチームの皆さんと考えていくのが重要だと考えています。
◆オフラインイベントから“ファンで成り立つeスポーツへ”
OooDa:Split 2、3ではChallengers Japanのオフラインが開催されるほか、VCT Pacific Stage 2のFinalsは日本で開催されることも発表されましたが、オフラインイベントの取り組みで考えていることはありますか?
泉:Riot Gamesとしては、日本のファンの皆さんは世界で最も熱狂的なファンとして捉えられています。それはMasters Tokyoのときに証明してくれたことでもあるし、社内でも「いつかまたMasters Tokyoをやりたい、あの場を作りたい」とよく言っていますし、今後もそういった世界大会を開く計画も進め始めています。
2023年のMasters Tokyoでは、Riot Gamesの本社から制作スタッフが渡航して大会を作っていました。しかしそれでは再現性がなく、コストもかかるし、頻度をあげて実現できないんです。もっと高い頻度で国際大会を日本で開催するために、国内の運営会社がクオリティと量を実現できる体制を作っていく必要があります。
今まではRAGEを中心に運営してきましたが、今後はさまざまな運営会社が国内のeスポーツ大会の開催経験を積んでいただき、日本のeスポーツシーンがさらに成熟していくことで、初めて国際大会を開ける状態になるんです。これがサッカーや野球など、スポーツの頂点を目指す次の一歩になると考えています。
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OooDa:日本テレビの視点ではいかがでしょうか?
小林:日本テレビが手掛けてきた大型イベントはほぼ全てオフラインです。我々の観点からすると、オフラインこそが僕らがやってきているイベントだし、オフラインの成功が我々の成功だと思っています。Split 1はレガシーを継ぐ形でスタートしましたが、Split 2、Split 3、あるいはその先で、日本テレビの目指す“イベントビジネス”の目標は、VALORANT Esportsの、あるいはeスポーツ全体の“観戦ファン”を増やしていくことです。
スポーツやエンタメでも同じですが、試合や映画、コンサートもお客さまがチケットを買って会場に来てくださって、色んなグッズを買っていただいて、成り立っていることも多いんです。eスポーツをそういったものにしていかなければいけません。
私もeスポーツをやってきた中で感じたのは、タイトルパブリッシャーの資金で運営されている大会が多いということです。その次に大手スポンサーが入ってくる形ですね。
最初はタイトルが成功し、プロモーションなども兼ねた資金で大会が開催され、成り立っていきます。次にスポンサーが入ってきますが、ずっと応援してくださっているスポンサーの多くは、ゲーミングPCや周辺機器関連などで、eスポーツビジネスの中での資金だと感じています。
そのベースにあるのは、“プレイヤーで成り立っていたeスポーツ”なんです。プレイヤーがいるからパブリッシャーにもお金が入りますし、PCや周辺機器の購入にもつながります。
ですが、これをプレイヤーだけではなくて、“観戦ファンがいることによって成り立つeスポーツ”にしていかなければなりません。
OooDa:紐解けば分かることだと思うんですけど改めて聞くと「確かに」と思いますね。
小林:観戦ファンもいて成り立つスポーツは、日本テレビがこれまで育ててきたものですし、eスポーツをそこに引き上げなければならないといけません。
泉:実際に今の観戦者の半分は、一度も『VALORANT』を触ったことがない人たちです。「プレイはしていないけど観るのは好き」という人たちが存在し始めていて、それはそれで素晴らしいことです。
笠置:やっていない方も多いですよね。プレイしていない人も惹きつけられる、そこに大きなチャンスがあると思っています。
泉:選手の生き様やチームのかっこよさ、アパレルなど、ゲームの外でさまざまなエンターテインメントやビジネスが成り立ち始めているところは、我々が目指しているネクストステップにあるんじゃないかと思っています。
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◆プレイだけでなく、選手の人となりにスポットを当てる
小林:プレイだけでなく、プレイヤーそのものにも焦点をあてたいですね。
プレイの魅力はもちろんですが、プレイヤーそのものに魅力を感じて、みなさんも応援してくれると思います。だからこそプレイヤーにどんどん焦点をあてて、その活躍をみて盛り上がれるような大会にしていけると良いですね。そういう意味では実況・解説のみなさんにも挑戦してもらわなくちゃいけません。
OooDa:僕らもこのままじゃダメだなと思っています。
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小林:実況の方々に何を伝えていただくのかも大切ですし、画面作りや日本テレビの番組での取り上げ方などを考えて、プレイヤーに光が当たるようにしたいですね。
笠置:ストーリーが大事ですよね。
いま盛り上がっているスポーツは、競技として面白いだけでなく、ストーリーが重要です。その人はどんな生き方をしていて、どんなことをやっていているのか、その共感性が応援したい気持ちにつながるし、いわゆる“推し”という存在になっていくのではないでしょうか。
試合だけではなく、日々の努力や苦悩、選手達の“生き様”を我々が伝えていくことが大事です。
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OooDa:昨年現役を退いたLaz選手も、アジアでは強いと認められたけど、やっぱりそれでご飯は食べていけなくて、これがダメだったらみんなバラけて就職しよう、実家帰ろうという苦悩を抱えていたなか、ラストチャンスとして『VALORANT』に参入した経緯がありました。いまDFMで活躍するArt選手も、プレイヤーを続けられないかもしれない状況から一度コーチになって、今では世界で戦っている。そういうドラマですよね。
eスポーツはゲームの画面が中心にあるので、その画面の向こうで操作して戦っているのは人間だぞ、ということと、彼らがどれほど魅力的であるかを話すことは、僕も昔から心がけているところです。とても共感できました。
小林:スポーツとしての地位をあげていくという面ではそうです。日本テレビも関わっている「箱根駅伝」では、毎年違う選手が走りますよね、だからこそ今走っている選手がどんな人間なのかをとても丁寧に伝えています。例えば「好きな食べ物」や「毎朝のルーティン」など、選手がどんな人なのかを知ることによって、応援しようという気持ちが生まれてくるんです。
笠置:等身大でパーソナルな部分ですよね。
小林:そういったものを知ってもらって、みんなに応援してもらえるような、誰もが好きな選手を見つけることができる環境を作りたいですね。
泉:Riot Gamesとしても、選手に焦点をあてる取り組みに積極的です。「Homegrown」ではMeiy選手の故郷である新潟県を訪れ、ドキュメンタリーが制作されました。今後パートナーとして2社が加わって、違うスポーツの見せ方やストーリーテリングの手法、プラットフォームなどを取り入れながら、もっと魅力を語れるように模索していきたいと思います。
笠置:「ユーザーが見たい形に近づけていくにはどうすれば良いか」、「チームが運営しやすくするためにはどうすれば良いか」、「『VALORANT』というゲームが愛され流行していくにはどうすれば良いか」この3つをかけ合わせないといけませんね。
◆Challengersのオフライン大会を甲子園のような“夢の場所”に
OooDa:では最後に、お三方の“今年の目標”を聞かせてください。まずは小林さんから。
小林:観戦ファンを増やすのが大事という話をしましたが、改めて“チームとプレイヤーのファンを育てて増やしたい”と思っています。
笠置さんの話していたチームの経営が課題という話も含め、『VALORANT』の人気を形作ってきたZETA DIVISIONとDetonatioN FocusMe(DFM)のように、国内でも彼らに匹敵する人気チーム、プレイヤーを育てていかなければなりません。
それが観戦ファンの増加につながり、eスポーツのエコシステムとして、タイトルパブリッシャーやスポンサーだけではない形で、ファンが支えるプロが成り立っていきます。今年はこれを作っていくことにチャレンジしたいです。
OooDa:長い道のりにはなりそうですが、1年かけてゆっくりと走り出して、ファンやチームの皆さんもついてきてくれたら嬉しいですね。
小林:そのためにはまず“会いに行けること”が大事ですね。選手に会いに行くだけでなく、同じように『VALORANT』が好きな人たちにも会えるような場所を作っていきたいです。
OooDa:笠置さんはどうでしょうか?
笠置:先ほども話した通り、チャレンジャーだと思って今年1年やらなければいけないと思っています。ファンを増やすことは当然ですし、大会を運営することがチームのためにも選手のためにもなります。日本テレビと協力しながら、ファンが求めるものをどうやって作るのかを考えていきたいです。
でもやっぱり、最後はアツい感動シーンをみたいですね。昨年のSplit 2は現地で観戦しましたが、こんなにも命をかけてやってきた人がいて、そこにこんなにもアツいファンがいるんだなと感動したので、もっともっと広がる可能性があると感じています。我々は広告会社ですから、協賛者の皆さまにこの魅力をもっと伝えていかないといけませんし、ファンやユーザーの皆さまのためになっていくことをたくさんしたいです。
OooDa:泉さんは、今後のビジョンなどはありますか?
泉:VCT Pacificのチームには多くのChallengersプレイヤーが抜擢されていますが、その中でもChallengers Japanの選手が一番多いんですよ。それほどにChallengers Japanは国際シーンにおいても、とても重要なリーグとして評価され始めているんです。
しかし、ここまでのお話しでも触れたとおり、チームや大会運営に関して、色んな人たちがなんとか頑張っている状態の部分もあります。だからこそ、まずはChallengers Japanから、チームも含めて関わる人たちがハッピーになれる、持続可能な状態にしていきたいです。
そして、選手たちにとって、Challengersのオフライン大会は「甲子園」のように目指したいと思える、格のある場所として作っていかなければなりません。Challengers全体の質という表面的な部分はもちろん、中身の部分、足元の部分をしっかり見直しをしていくことを、今年1年で実現したいと思っています。
OooDa:楽しみですね。今年1年で土台ができて、ゆっくりではありますけど未来が見えていくような時代になって、さらに2026年からが楽しみになりますね。
これまでの土台の上に、「観るeスポーツ」としての新たな挑戦が始まろうとしています。日本テレビの持つイベントノウハウ、博報堂DYメディアパートナーズのスポーツビジネスの知見、そしてRiot Gamesのグローバルな視点。3社それぞれの強みを活かしながら、VALORANT Esportsは次のステージへと進みます。
「ファン」「選手」「チーム」3つの軸を大切にしながら、持続可能な形でeスポーツを育てていく―。2025年、日本のVALORANT Esportsの新しい物語は、ここから始まります。