現在開催中の『リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会「Worlds2024」で、T1がG2を下してスイスステージベスト8に進出し、Faker選手が「Worlds」100勝という偉大な記録を達成しました。
そんな中、韓国ではKポップアイドルに並ぶほどの人気を誇るT1選手たちが世界最高峰の舞台で戦えるように、健康とパフォーマンスを支えている専属シェフに焦点を当てたドキュメンタリーが公開。本稿でその内容をご紹介します。
◆LCK決勝戦前日のシェフの1日が描かれる
海外のYouTubeチャンネルAlvin Zhou Filmsが公開した“The Private Chef For Korea's #1 Gaming Team”では、昨年に開催されたLeague of Legends Champions Korea 2023 (LCK 2023)の決勝戦を翌日に控えたT1に対し、専属シェフAlex Kim氏が選手たちのことを「どのように考えてサポートしていたか」が描かれています。
T1は韓国のカンナム市に、T1 HQというビルを2021年に設立しています。 Kim氏の1日は午前8時に9階にあるカフェテリアでスナック類の補充からスタートします。
選手たちは早朝まで練習していることが多く身体を酷使したあとなので、疲労回復を目的にタンパク質と炭水化物が含まれているスナック類が並んでいます。 選手たちの好みにあわせて燻製卵やチョコレート、ナッツ類も取り揃えることで、食事を取っていない選手の空腹を満たせるように整理されています。
T1に所属している選手の中にはまだまだ成長期の若年層もいるので、シリアルとナッツは常に補充してあり、牛乳やエナジードリンク、豆乳も欠かさずに用意されています。
午前10時からは2人の助手とランチの準備に取り掛かります。10年かけてレシピを磨いてきたKim氏が用意したのはトンカツ、カルボナーラトッポギ、冷麺、マカロニサラダ、そしてグリーンサラダとフルーツです。
メニューを決める際にはかならずタンパク質と炭水化物が含まれていることと、ビタミンとミネラルを補充するためのサラダとフルーツは絶対に提供すると決めているそう。 炭水化物はダイエット目的だと敵にされがちですが、アスリートであるプロゲーマーの食事には欠かせない栄養を多く含んでいます。 さらに、選手たちはほとんどの時間を室内で過ごすので、野菜とタンパク質の摂取量も増やすように気をつけているとのこと。
午後1時からは、コーヒー休憩に入ります。 T1 HQにはT1 Cafeというカフェラウンジが併設されており、当時はFaker選手の10周年を祝ったイベントを開催していました。 T1 Cafeでは選手のサインをラテアートにしたり、選手のお気に入りのドリンク紹介やスペース貸出など、ファンには嬉しい要素が目白押しです。
Kim氏によると、選手たちは最長8時間連続で練習を続けるので、疲れている時は砂糖やカフェインがパフォーマンス維持を助けてくれると語っています。 そんなKim氏自身は一日10杯はコーヒーを飲んでいることから、華やかな選手を支える裏方もプレッシャーが大きな現場と伝わってきます。
その後、Kim氏がT1 HQの8階にあるレクリエーションルームを案内。 ここにはPCゲームやコンソールが並んでいたり、配信用スペースや外出しなくてもストレス発散ができるようにカラオケルームやマッサージチェアが配備されています。いかにT1 HQで選手たちが気持ちよく過ごせるか設計されているかが分かります。
午後3時からはディナーの準備。LCK 2023の決勝戦前日ということで特別メニュー。T1では決勝前日などの大一番には、必ず特別メニューを用意することで、選手たちを鼓舞する習慣があるそう。
Kim氏は選手たちの好みを把握しているので、選手が嫌っているものは避けて、欲しがっているものと必要な栄養素が満たされることを心がけています。
動画では食事の好みを聞かれたFaker選手が「特別メニューは全て好き」と答えるシーンもあります。あとビーフステーキも好きだそう。 Gumayusi選手やOner選手はダイエット中なので、タンパク質をより摂取できるようにサーモンステーキを用意。
特別メニューを提供するとき、選手たちを同僚ではなくファンの一人として応援し、選手たちが食事を通してより多くの力を得られればと考えているKim氏。もちろん、選手を預かる身として、常に家族のように選手に接してお腹と栄養を満たせるように努力を続けているので、食材の下処理には一切の気も抜きません。
Kim氏の仕事はディナー後も続きます。 午後7時からは料理関連のニュースを集め、食材価格のインフレに悩む別の意味での台所事情とも戦っています。 また、気になる料理があった場合は休憩時間にレシピ本をあさって学習しつつ、Kim氏自身も『LoL』をプレイ。T1に所属している=誰もが強いわけではないと立証してくれます。
午後9時15分になると大多数のT1スタッフは退勤済みですが、Kim氏は残って夜食の準備を始めます。 選手たちは深夜まで練習するので常にお腹を満たせるように備えているようです。 深夜ということもあり、消化を考えて油っこい食事よりも慣れ親しんだ韓国料理を用意して、選手がリラックスできるように配慮もされています。 そうしてKim氏の一日が終わりました。
そして迎えたLCK 2023の決勝戦ですが、T1はGen.Gに敗退してしまいます。勝負の世界ではどれだけ準備をしても常に後悔が残るとKim氏は語ります。 動画では語られていませんが、2023年のT1は苦戦が続き、苦しい一年となりました。 しかし、Kim氏は「T1は世界最高のチームである」と信じており、事実として多くの困難を乗り越えてWorlds 2023の世界王者に君臨しています。 その功績を支えたのは紛れもなくKim氏でしょう。
eスポーツシーンは選手やストリーマーにばかり目がいきがちですが、Kim氏のようにチームを支えているスタッフたちの活動にも目を向けてみると、また新しい楽しさや推したい気持ちが芽生えてくるかもしれません。