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「仕事かLoLか」の毎日を送る支配人に聞く―なぜ伝統の温泉宿「神湯館」はeスポーツの拠点に?【インタビュー】

『リーグ・オブ・レジェンド』のプレイヤーでもある「神湯館」支配人の杉戸宏羊氏に、施設の成り立ちから、LoLとの異例のコラボレーション、そして『LoL』に対する熱い想いを、余すところなく語っていただきました。

松田和真

松田和真

三重県津市の榊原温泉郷に佇む老舗旅館「神湯館」。美肌の湯として知られるこの施設は今、eスポーツファンが集う合宿の拠点として、新たな歴史を刻んでいます。

コロナ禍を機に、館内に本格的なeスポーツスタジアムやトレーニングルームを新設。オンライン上の仲間たちと顔を合わせ、温泉や食事を共にしながらゲームに没頭できるという、唯一無二の体験を提供しています。

今回は、この大胆な変革を牽引し、ご自身も『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』プレイヤーである支配人の杉戸宏羊氏に、施設の成り立ちから、LoLとの異例のコラボレーション、そして『LoL』に対する熱い想いを、余すところなく語っていただきました。

杉戸宏羊 支配人

歴史ある老舗旅館がなぜ“eスポーツ”? 実は起死回生の一手だった

――はじめに、eスポーツと旅館を掛け合わせようと考えた経緯から教えてください。

杉戸:大きなきっかけはコロナ禍でした。経営的に旅館の運営自体が困難になり、会社として事業再構築を考える中で、補助金を活用する案が出たんです。その中で「eスポーツ」に注目しました。若い世代が中心であること、そしてアジア大会の種目になるなど日本での注目度が非常に高まっていたからです。

――なるほど、既存の旅館業からの大きな転換ですね。

杉戸:当旅館「神湯館」は、もともと平均年齢が60代と高齢のお客様が多く、若い世代に来ていただきたいという思いがありました。eスポーツを取り入れることで、3世代で楽しめる旅館になるなと。

――そもそも、温泉旅館とeスポーツという組み合わせは非常にユニークです。どなたかのアイデアだったのでしょうか。

杉戸:特定の誰かが好きだった、というわけではないんです。ただ、この榊原温泉地区は、コロナ禍以前から温泉施設が減少傾向にあり、熱海や草津のような食べ歩きができる温泉街のような強みもありませんでした。インバウンド需要もほとんどなかったので、施設の中で思い切った取り組みをしなければならないという背景もあったんです。

――歴史のある老舗旅館だからこそ、転換が難しい部分もあったのではないでしょうか?

杉戸:難しい部分はたくさんありました。しかし、改革をしなければ生き残れないという状況だったからこそ、伝統という壁を乗り越えることができました。ただ、まだまだ課題はありますね。

トレーニングルーム
スタジアム

――今、具体的には、どのような施設があるのでしょうか?

杉戸:主に「トレーニングルーム」と「スタジアム」があります。トレーニングルームは一般の客室を改装しており、PC5台の部屋が2つと、PC3台の部屋が2つあります。スタジアムでは、eスポーツ大会などを行うことができます。ステージには本格的な照明と音響を完備しています。

また、ゲームを長時間プレイされることも考えて、旅館内に24時間利用できる冷凍食品の販売スペースを設けています。客室は基本的に素泊まりなので、持ち込みはもちろん、ここで購入したものを電子レンジで温めて食べることもできます。深夜までゲームをして、朝にお風呂に入るという方が多いですね。周辺にコンビニなども少ない立地なので、施設の中で完結できるサービスは重要だと考えています。

24時間利用できる冷凍食品の販売スペース

利用者の8割は『VALORANT』プレイヤー―オフラインで生まれる繋がり

――施設のオープン当初は、どのような方が利用されていたのですか?

杉戸:特にゲームタイトルを絞っていませんでしたが、蓋を開けてみるとお客さまの8割が『VALORANT』プレイヤーでした。ほとんどが大学生などの若い方々ですね。ゲーミングルームはPC5台の部屋が2つあるので、5人チームでプレイする『VALORANT』との相性が良かったのかもしれません。

――実際に利用した皆さんの反応はいかがですか?

杉戸:オンラインでしか会ったことのない仲間と、ここで「はじめまして」を交わす光景をよく見かけます。ゲーム内の名前で呼び合って、「あ、〇〇さんだよね?」みたいな会話が聞こえてくるんです。都道府県もバラバラな5人が初めて顔を合わせる、そんなリアルな交流の場になっています。

もちろん「温泉がすごく良かった」という声や「自宅にはないハイスペックな環境でプレイできて嬉しい」といった設備面での喜びの声もいただきます。

――プレイヤーとしては、ネット回線環境も気になるところです。

杉戸:改装時に10Gbpsの光回線を導入していますので、快適にプレイしていただけます。

――『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』のプレイヤーも利用されますか?

杉戸:はい。ただ、個人的には『LoL』にこそ、この環境は最適なんじゃないかと思っています。

――というと?

杉戸:『LoL』は非常に戦略的なゲームですよね。もちろんDiscordで話しながらプレイするのもいいですが、同じ空間で隣り合わせでプレイすることで、より深いコミュニケーションが生まれます。一緒にご飯を食べて、温泉に入ってリラックスして、それからまたゲームに向き合う。試合後にみんなでリプレイを見返したり、ホワイトボードに書き出して作戦を練ったりするのもいい。仲間との絆もゲームの理解度も、格段に深まるはずです。

――オフラインならではの体験ですね。

杉戸:そうですね。私自身も友人とここで『LoL』をプレイしたことがありますが、隣の人の画面をパッと見たり、直接コーチングしてもらえたり、すごく楽しかったですね。リプレイ機能もあるので、試合を振り返りながらじっくり話し合えるのは『LoL』の大きな利点だと思います。

温泉施設なので、5人チームでの強化合宿などにも最適だと思いますし、実際に星城大学のeスポーツ部の方々には合宿でご利用いただきました。

――スタジアムはどのように利用されていますか?

杉戸:スタジアムでは、様々なタイトルのコミュニティ大会が開催されていますし、大会の会場としてもご利用いただく予定です。eスポーツとは直接関係ないですが、過去には地域の方々のカラオケ大会や北海道フェアのようなイベントも開催しています。

気軽に始めてみたら、今では「仕事かLoLか」の毎日

――杉戸さんも「LoL」プレイヤーだとお聞きしました。プレイ歴はどのくらいなのでしょうか?

杉戸:プレイ歴は1年2ヶ月ほどで、メインロールはサポートかミッドで、最近はサポートだと勝ちにくいと感じているので、ミッドの修行中です。

私がここの支配人になった2年前は、eスポーツの経験が全くなかったので、お客さまと話をするためにも何か一つは真剣にやらないといけないなと思い、始めたのがきっかけです。

――数あるタイトルの中で、なぜ『LoL』を?

杉戸:たまたま当時一緒に住んでいた同僚が熱心な『LoL』プレイヤーだったんです。彼が隣で直接教えてくれるなら始めやすいなと。やってみたら、すっかりハマってしまいました。今では「仕事かLoLか」というくらいの生活で、休みの日はほとんどプレイしています(笑)

――『LoL』のどんなところに魅力を感じましたか?

杉戸:キャラクターの多さもそうですが、すぐに正解がわからない「奥深さ」ですね。プレイするたびに新しい発見があります。知らないスキルで倒されると、もちろん悔しいですが、試合後にそれを調べて「なるほど、次はこうしよう」と一つ学べる。その積み重ねで自分が強くなっていける感覚が、たまらなく楽しいです。

――よく使うチャンピオンは?

杉戸:メイジ系のチャンピオンが好きなので、サポートではヴェル=コズ、ミッドではフェイを使っています。最初に同僚から「顔が好きなキャラを選ぶといいよ」と言われて、遊び半分で選んだのがフェイだったんです。見た目は格好いいんですが、実際に使ってみたらとても難しかった、という(笑)。でも、技が多い分、選択肢も多くて楽しいですね。

「温泉 × eスポーツ」ここでしか味わえない体験を提供したい

――今回の『LoL』コラボは、まさに杉戸さんにとっても嬉しいものだったんですね。

杉戸:そうですね。本当に驚きましたし、自分が好きなゲームから連絡が来たという喜びも大きかったです。このコラボが実現できたのは、私たちが温泉とeスポーツを掛け合わせた事業を以前から行っていたからこそだと思います。

――コラボグッズも温泉旅館ならではの内容です。

杉戸:はい。せっかくなので、この土地ならではの特色を入れたいと考えました。温泉の素は、実際に榊原温泉のお湯を元に作られていますし、温泉化粧水も源泉を使っています。榊原温泉はアルカリ性が高く、「美肌の湯」として女性のお客様にも人気があります。肩こりなど、日頃の疲れを癒す効果も期待できるんです。


――今後の神湯館の展望についてもお聞かせください。

杉戸:実は、今年の8月末で従来の旅館業は終了し、今後はeスポーツ施設と、それに付随する宿泊サービスに完全に特化していくことになります。

――大きな決断ですね。まさにeスポーツ施設がメインになると。

杉戸:はい、これまで以上にeスポーツに力を入れていきます。プロチームの合宿はもちろん、学生の部活動、そしてファンイベントなど、様々な形で活用していただきたいです。好きな時間に好きなだけゲームに没頭できる、そんな使い方をしていただけたら嬉しいですね。

その他にも、SKE48のeスポーツチーム「amshy」と連携した企画も考えていますので、ぜひご注目ください。


――最後に、読者やeスポーツファンへメッセージをお願いします。

杉戸:当館は、歴史ある旅館の落ち着いた雰囲気と、最新のeスポーツ設備の両方が楽しめる、他に類を見ない施設です。普段オンラインでプレイしている仲間と、ぜひオフラインで集まってみてください。一緒に食事をし、温泉に浸かり、そして隣り合って同じゲームに熱中する。味わったことのない体験ができるはずです。

最寄り駅の榊原温泉口駅。神湯館利用者には無料送迎バスがある。

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