
- VALORANT
- インタビュー
Riot GamesのタクティカルFPS『VALORANT』。その魅力の一つに、緻密にデザインされたマップと、ユニークなアビリティを持つエージェントの組み合わせがあります。
今回、『VALORANT』の開発を支える二人のクリエイター、マップデザイナーのDiego氏と、「クローヴ」などを含むエージェントコンセプトアーティストであるNancy氏が来日。東京ゲームショウ2025のステージに登場しました。
このステージにあやかって、FISTBUMPではインタビューを実施。見届け人としてムラッシュゲーミングからBijuさんにお越し頂き、共に『VALORANT』開発の裏側を探りました。
最新マップ「カロード」のコンセプトから、エージェント「クローヴ」の「不死」というテーマが生まれた背景、さらには競技シーンとランク戦を意識したデザイン哲学まで、多岐にわたる制作の裏側に潜む秘密に迫ります。
——よろしくお願いします。まずはみなさんの自己紹介をお願いします。
Nancy:Riot Gamesで『VALORANT』のエージェントに関するコンセプトアーティストをしているNancyです。
Diego:同じくRiot Gamesで『VALORANT』のマップデザイナーをしているDiegoです。
Biju:元日本4位の『VALORANT』プレイヤー、Bijuです。今は……ウォッチパーティーマスター!
Nancy&Diego:(大ウケ)
——いいですね。では早速、まずはDiegoさんにマップについて伺っていきます。最新マップ「カロード」がリリースされましたが、まずそのコンセプトや意図したこと、どのようにマップを作っていったのか教えてください。
Diego:カロードでは「何層に重なる(レイヤード)防衛」を考えました。防衛側が戦闘を仕掛けた後、後退し、さらに安全なポジションへと下がり続けられるように、そしてリテイクを強いられたり、サイトで倒されざるを得ないと感じたりしないように、といった具合です。防衛側はサイトをかなりうまく守れると感じてほしいですし、攻撃側には進入にある程度苦労してほしいと考えました。しかし、攻撃側が一度サイトを奪取したら、攻撃側にもスパイク設置後で非常に有利だと感じてほしかったんです。
——攻守ともにアグレッシブなスタイルが可能なマップに仕上がっていますね。Bijuさんはカロード、いかがですか?
Biju:あんまり…ランク(コンペティティブ)だと……。でもミッドの攻防はとても好きだし、競技だとめちゃ面白いです!
Diego:連携がうまくいってないとランクでは難しいですよね。おっしゃるように、プロの試合ではとてもうまく機能しています。
——競技とランクは別物ですが、どちらも意識する必要があると思います。このバランスはどのようにデザインしていくのでしょうか?
Diego:もちろん両方の観点からみています。競技シーンでは、プレイヤー全員がトップレベルなので、マップがプレイしやすいところもあるかもしれません。そしてランク戦では、プレイヤーの幅がもう少し広くなるため、連携が難しくなってしまうこともあるでしょう。
ただし、アセントのようにプロがたくさんプレイしたことで、ランクプレイヤーがプロのプレイから多くを学びますよね。ランクのカロードも時間の経過とともにバランスが取られていくと考えています。
——Diegoさんがマップをデザインするうえで、最も大切にしているものはなんですか?
Diego:私の場合は、ひとつ目標を掲げてデザインしています。例えば、ロータスでは、3サイトマップにしたいとまず考えました。それを念頭において、マップの目玉となる回転ドアを加えたたんです。ひとつひとつのマップの目標を念頭において、それをクリアしていき、さらにデザインを改善し続け、長期的に良いデザインと感じていただけるように務めています。
——Diegoさん個人として、とても上手くいったマップはありますか?
Diego:ロータスは競技シーンとランクでかなり人気ですよね。シンプルなデザインと、回転するドアが興味深いプレイを可能にしているからだと思います。
Biju:やっぱりプロシーンでも、いろんなチームがピックしますよね。俺もロータス好きです。マップについてひとつ質問なんですが、ブリーズのダクト付近は…今後どうなるんですか!!!
Diego:……なにも言えませんね(笑)ただブリーズには注目して気を遣っていますよ。
——ブリーズのダクトやロータスの回転ドア、フラクチャーの長いワイヤーのように『VALORANT』のマップにはさまざまなギミックがあります。開発段階でアイディアとして出たものの、実装には至らなかったものなどあれば教えてください。
Diego:アイディアの一つには、『Counter-Strike』のNukeのような重なるマップデザイン(複数の階層があるサイト)などもありました。そのほか、例えば動くプラットフォームのようなもので移動することなどは考えていましたね。こんな具合で試行錯誤を重ねて検討しています。
——Bijuさん、なにかアイディアありますか?
Biju:『マリオカート』のダッシュ床みたいに、踏むと早くなる床とか?
Diego:(大ウケ)不可能ではありませんよね。なんでも可能性はありますよ(笑)いつか採用されるかもしれませんね(笑)
——マップデザインとエージェントのデザインは、それぞれどのような関係性なんでしょうか。互いを考慮して開発されるものなのですか?
Nancy:互いにどのようなことをしているかは把握していますが、基本的にそれぞれ独立して開発が進みます。
Diego:そうですね。ある程度開発が進めばプレイテストに移るので、そこでフィードバックなどが行われますね。
——なるほど。Nancyさんはクローヴに特に深く関わっていたと聞いています。クローヴの「不死」という独特なデザインはどのように生まれたのでしょうか?
Nancy:開発の初期段階で、私たちは「beautiful decay(美しい崩壊)」という言葉をよく使いながら、「生と死」といった二重性(duality)を用いたたくさんの遊びを考えていました。また、私たちは蝶のモチーフを多用しました。多くの作品で蝶は生まれ変わりや生死を象徴していますよね。崩壊や腐敗といったテーマはありつつも、それにひとひねり加えた結果、今の「キュートでエッジの効いたクローヴ」が完成しました。
——アビリティーを使用すると蝶が舞って綺麗ですよね。そうした実際のアビリティーは、最初のコンセプトの時点で想像してデザインしているのですか?
Nancy:開発初期は大まかなアイデアだけを持っています。しかし、キャラクターやテーマについてより深く掘っていくにつれて、それが変わることもあるんです。プレイテストなどを実施し「ああ、これはうまくいかないな」とか「こっちのほうがいいな」と気づきながら、試行錯誤を繰り返しています。
Biju:気になるんですが、エージェントのアビリティーを考えるうえで、他の競合タイトルとの“被り”を気にすることはありますか?同じジャンルだとどうしても似たようなものになってしまう気がします。どのように差別化しているんですか?
Nancy:難しいです(笑)というのも、火と水など、被ってしまうことを避けられないアイデアもあるからです。でも、そういったことをすべてカバーし、もっと複雑なアイデアに進むことで、よりユニークになり、新しいものを見つけられると思っています。でもやっぱり難しい問題ですね(笑)
——クローヴはスコットランドのエージェントですよね。収録やキャスティングも首都エディンバラで行ったと聞いています。そういったロケーションの研究も開発のひとつなのですね。
Nancy:開発には文化背景を調査するチームがあり、たくさんのリサーチをします。文化に対する正確さ、忠実さ、バックグラウンドなどをしっかり調査しています。
Diego:マップも同じです。マップ作成でも文化的チェックが多く行われます。例えば我々の本部に近いロサンゼルスを舞台にしたサンセットの開発でも、たくさんの参考資料を集めました。
我々の本拠地であるロサンゼルスはともかく、インドを舞台にした「ロータス」は文化調査チームが現地にいって、建造物や植生などを調べました。最近の「カロード」であれば、パリのモン・サン・ミシェルですね。全てをあくまでインスピレーションとして参考にしています。
Biju:カルチャーチーム羨ましい。楽しそう(笑)
——エージェントをデザインする際に最も大切にしていることはなんですか?
Nancy:クローヴであれば「beautiful decay(美しい崩壊)」のように、非常に強力なテーマを持つようにしています。そしてそのテーマが、見た目、アビリティ、さらにはパーソナリティにまで一貫して反映されていることを目指しています。すると、すべてが一貫性があるように感じられるはずです。
もちろんヒットボックス内に収まっていることも大事です。もちろんゲームプレイが最優先なので、あまりにもクレイジーなことはできません(笑)
——とは言っても、例えばフェイドとかオーメンのようなファンタジー的、KAY/Oのようなロボット的なエージェントなど、『VALORANT』のエージェントは多様性に富んでいます。この多様性はひとつ意識している要素なのでしょうか?
Nancy:多様性はとても大切な要素です。私たちのゲームは、非常に多くの人々にプレイしていただいているので、すべての生き物を適切に表現することを目指しています。世界観作りという意味でも、KAY/Oのようなキャラクター、ゲッコーの仲間達のようなさまざまな仲間がいます。それら全てに世界を広げる機会があるんです。
Diego:僕たちが社内でよく言うことの一つは、『VALORANT』は“グローバルであることを大切に”です。なにかを表現するときには、先ほどの調査チームの件もそうですが、徹底的にしています。
——なるほど、表現にはとても気を遣ってるんですね。
Biju:表現のひとつとして、キャラのグローブ(手元)スキンが欲しいです!
Diego:いいですね!
Biju:ぜんぜん関係ないんですが、要望としてひとつ、マッチキュー中に射撃場をプレイできるようにしてほしいです!
Diego:僕もそう思うよ!
Nancy:私も(笑)
——僕もそう思います。伝えておいてください(笑)それでは最後に、日本の『VALORANT』ファンへメッセージをいただけますか?
Nancy:日本に来られて、最高の経験でした。ホスピタリティが本当に素晴らしかったです。ゲームをプレイしているときでさえ、みんながとても楽しくて、すごく盛り上がっていました。素晴らしい経験でした。本当にありがとうございました!
Diego:みんな親切でとても歓迎してくれました。僕のステージのプレイは最高とは言えませんでしたけどね(笑)僕は日本を『VALORANT』におけるすばらしい地域だと思っていますし、再び日本で国際大会など行われるといいです。皆さんは間違いなく世界で最高の地域の一つです!ありがとうございました!
——Bijuさんも、通訳のMIZUKAさん含めありがとうございました!